wild poker~ワイルドポーカー~
追憶 【side‐A】
『……千尋』
どこか遠くで……誰かの声がする。
それは優しく俺の名を呼び、そしてその声の正体を、俺は知っていた。
ゆっくりと目を開けば、眩しい白い世界の中に、愛しい《彼女》の姿が見える。
彼女は俺に寄り添うように座ったまま、俺の肩にそっと身体を預けた。
『ねぇ、千尋。もしも名前を付けるなら……千尋だったらどうする?』
そんな彼女の《懐かしい》問い掛けに、小さく笑みを浮かべる。
……名前。
そうだな……それなら……
俺の唇が震え、その《名》を告げる。
すると《彼女》は穏やかな笑みを浮かべ、それからコクリと頷いて見せた。
……それは遠い昔の、懐かしい《記憶》
しかしそれは静かに白い世界の中に溶け、そして遥か彼方から音も無く深い闇が迫り来る。
……そう、あの世界には戻れない。
俺はこの《悪夢》の中で、《戦い》続けなければならないのだから。
そんな考えが浮かんだその瞬間、全てはどこまでも深い闇に呑み込まれ……そして何も見えなくなった。