wild poker~ワイルドポーカー~
……藤谷。
そう小さく、彼の名を呼ぶ。
……もう俺には分からなかった。
何を信じるべきなのか。
何が正しくて、何が間違っているのかすら。
ただ一つ分かるのは、俺は死ぬわけにはいかない。
《アイツ》を救い出す……その時までは。
そんな決意と共に、目の前に不思議な赤いラインが見える。
そしてその前で足を止めると、ゼイゼイと呼吸を荒げたまま、そっと後ろを振り返った。
しかしそこに……藤谷の姿は見えない。
シンと静まり返った薄暗い洞窟の中、どうしようもない孤独を感じる。
……戻る事はもう出来ない。
俺はただ進むだけだ。
このクソみたいな《物語》の……《結末》へと向けて。
「……悪い夢なら、早く覚めてくれ」
そう呟き自嘲気味に笑うと、そっと境界線を踏み越えた。
すると辺りの景色がユラユラと揺らぎ、次第に深く不穏な闇へと覆われて行く。
その闇の中に微かな光が差し……そして見えた光景に思わず失笑が浮かぶ。
「これも《お前》の望むストーリーか?それとも……《運命》とやらなのだろうか」
そんな答えの返って来ないと分かっている問いを一人呟きながら、美しい満月の照らす妖しい《街》を……ただ静かに眺め続けた。