wild poker~ワイルドポーカー~
「……どうして、私の……」
霧島さんは怯えた様に瞳を震わせ、胸に抱いたコウモリを抱き締める。
「私はずっと貴女のカードを狙っていたんです。《ハートの10》……それがあれば、私はこの最悪なゲームから抜け出せる。だからずっと狙っていた。……貴女の事を」
「……ずっと?」
その俺の問いに黒咲さんは小さく頷くと、それから口を開く。
「そう、あの《森》で貴女を見つけた時から。だって霧島さんったら、馬鹿みたいにずっと手にカードを持っていたから。無駄な殺しは嫌いなので見逃そうと思っていたのに、貴女が《ハートの10》だって気付いてしまったんです」
そう言って黒咲さんは困った様に笑うと、ワザとらしく眉を顰めて見せた。
「それならどうして須藤さんを……」
「ちょっとしたアクシデントが起こって、彼に私の秘密を知られてしまったんです。それで致し方なく」
黒咲さんはニッコリと笑みを浮かべると、自分の胸元にそっと手を触れる。
彼女の着ているブラウスは元からボタンが取れていて、それがクリップで止められていた。
しかし今はそのクリップはなく、白いブラウスが開かれ、そしてそれが微かに赤く染まっている。
「先に銃を向けたのは須藤さんですよ?だからこれは……正当防衛」
そう言って黒咲さんはまた妖しい笑みを浮かべた。
しかし月明かりに照らし出されるその笑みは、酷く歪で禍々しい気配を纏っている。