wild poker~ワイルドポーカー~

「……鬼ごっこはもうおしまいですよ?」

そんな甘い囁きと共に、クスクスと妖しい吐息が響く。

そして静かに近付くその影を、窓から差し込む月明かりが照らし出す。

そこには甘美な笑みを浮かべ、哀れな俺達を嘲笑う……黒咲さんの姿が見えた。

「……佐伯君」

霧島さんは怯えた様に俺の服の裾をギュッと握り締める。

それから彼女の震えを感じたまま、そっとテーブルに視線を落とした。

「貴方に出来るんですか?優しい、優しい……佐伯君に」

黒咲さんはそう言って真っ直ぐに俺を見つめるが、俺は彼女から視線を逸らし、ただテーブルに浮かぶ文字を見つめる。

こんな状況になって、俺はまだ……迷っていた。

……怖い。

このボタンを押す事が……堪らなく怖い。

それは人を《殺す》という残酷な決断。

それが俺は、怖くて仕方がなかった。

俺の指は《役をつくる》のボタンの上で止まったまま、動こうとしない。

「佐伯君、少しだけ私の話を……聞いてくれますか?」

その突然の黒咲さんの言葉に、そっと彼女を見つめる。
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