wild poker~ワイルドポーカー~
「カードを……持っている…な?それで…すぐに……元の世界へ……帰れ」
「でも、アンタは……」
そこまで言って、口を噤んだ。
ジョーカーは《分かっているだろ?》と言いたげに、小さく笑って見せたから。
「これで……終わる。俺の……永い《悪夢》が」
そう言ってジョーカーは空へと向かって手を伸ばす。
それはまるで空に浮かぶ美しい月へと向ける様に、ユラユラと宙を漂う。
そしてその伸ばされた左手で、何かがキラリと光った。
それは……指輪。
少し変わった形のシルバーのリングが月明かりで切なく光り、それと共に小さな記憶が蘇る。
「その指輪……母さんの」
そう……その指輪を知っていた。
それは俺の母親が嵌めている指輪と……同じ。
「それ、手造りだって言ってた。世界に二つしかない……指輪だって」
そう自分で言葉にした瞬間、最悪な憶測が頭に浮かぶ。
しかしそれは俺を酷く困惑させ、それ以上俺の口から言葉が紡がれる事は無かった。
そしてすでに俺の言葉が、男の耳に届いていない事に気付く。
彼の瞳は怖くなるほどに美しい満月に向けられたまま、静かに光を失って行く。
「これで……よかった……んだろ……藤……谷」
彼の唇が震え、誰かの名を呼ぶ。
それから彼が静かに目を閉じ穏やかな微笑み浮かべると、彼の手は力を失い、ポトンと虚しく地面に落ちた。