wild poker~ワイルドポーカー~

「待って……でもこれを俺が使ったら君は……」

そこまで言って足を止めると、少女はニッコリと眩しい笑みを浮かべた。

「知ってます。私……死んじゃうんでしょ?」

「知ってますって……それならどうして俺に」

「きっと勇者様には分からない理由。だから気にしないで」

俺の言葉を遮って少女はそう言うと、また俺の背中を押して、無理やり俺をゲームテーブルへと連れて行く。

「《あの子》も待ってる。勇者様が来るのを……ずっと、ずっと待ってた」

「……《あの子》?」

その俺の問いに少女は俺からそっと視線を逸らし、静かに空を見上げる。

するとそこには美しい満月が光り、その光が幼い彼女の姿を照らし出す。

「《あの子》は私と《同じ》……だから待ってる。勇者様の事」

月を見上げたまま少女はそう呟くと、それから真っ直ぐに俺を見つめる。

「早く、早く!」

そう言って少女は俺を急かすように、ゲームテーブルへと俺を押しやった。

灰色の無機質なゲームテーブルの前で、手にした《ハートのJ》のカードを見つめる。
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