wild poker~ワイルドポーカー~
再会 【佐伯 颯太】
明けていく空を見上げたまま、フラフラと明け方の街を歩いてく。
涙は止まる事を知らない様に、俺の頬を伝い続けた。
すでに通勤、通学時間になったこの通りには人の姿が増え、すれ違う通行人達は涙を流すボロボロの俺の姿を訝しげに見つめ、通り過ぎて行った。
……どうでもよかった。
今の俺には……どうでもいい。
そんな事を考え自嘲気味に笑った……その時だった。
「あ、あの!」
突然後ろから声を掛けられ、そっと歩く足を止める。
それからゆっくりと後ろを振り返ると、そこには一人の女子高生の姿が見えた。
彼女は振り返った俺の姿をマジマジと見て、少し怯えたように身を竦めながらも、俺に向かって何かを差し出した。
それは……ハンカチだった。
可愛い花柄のハンカチ。
「こ、これ……よかったら……使って下さい」
そう言って彼女は俺に向かって、ハンカチを差し出す。
緊張しているのか微かに震えるその手を見つめ、それからそっとハンカチを受け取る。
「ありがとう……霧島さん」
そう言ってニッコリと笑って見せると、彼女は驚いた様に目を丸くした。
「どうして……私の名前」
彼女がそう小さく問い掛けるが、それには何も答えないまま歩き出す。
……この出会いが、一体何を意味しているのか。
そんな事は俺には分からない。
でもこれも世界が望む《運命》とやらなのだろうか。
「……残酷な世界だな」
そう一人呟いてクスリと笑うと、ボロボロのこの状況をどう母親に説明しようかと悩みながら、手にした花柄のハンカチをそっと握り締めた。