せ ん せ い
「志衣奈さん」
ベッドに横たわるわたしの名前を、力の無い低い声が呼んだ。
その声の主が続けて言いそうなことはだいたい察しが付くけれど、少し固く感じるソバ殻の枕に頬を埋めたまま、「なに?」と一応返事を返す。
「アナタ、今授業中でしょ」
「うん」
「『うん』って…。出なさいよ、何で保健室にいんの」
私が怒られるんですよ、と彼はブツブツ呟きながら、小さく溜め息を吐いた。
わたしが「生理痛です」と英語の男の先生に嘘をついて授業を脱け出してきたのは、5分前。
男の先生はこの言い訳を使うと、絶対文句は言えないのだ。例え、それが2週間くらい続いても。実に愉快。
「どうせ暇でしょ、先生」
「忙しいですよ。養護教諭だって、一応先生ですから」
折角単位を削って遊びに来たというのに、先生は偉そうに固いことを言う。
そんなことを言う人の顔を拝んでやろうと、わたしはゆっくり体を起こした。
そして、ふと彼のいる長椅子を見ると。
ゴロンと仰向けになってDSをやっている男が、一人。誰だ、忙しいなんて言った奴は。
「ゲームしてるじゃん」
「違いますよ、最近はDSで勉強も出来るんです。志衣奈さん知らないんですか?若いのに」
「机の上にテトリスのケース置いてあるけどね」
「……」
しまった、と言わんばかりに彼は固まり、ゲームオーバーを知らせる暗い効果音が静かに流れる。
ツメが甘いんだよ、先生は。