せ ん せ い







「志衣奈さん」



ベッドに横たわるわたしの名前を、力の無い低い声が呼んだ。


その声の主が続けて言いそうなことはだいたい察しが付くけれど、少し固く感じるソバ殻の枕に頬を埋めたまま、「なに?」と一応返事を返す。




「アナタ、今授業中でしょ」

「うん」

「『うん』って…。出なさいよ、何で保健室にいんの」




私が怒られるんですよ、と彼はブツブツ呟きながら、小さく溜め息を吐いた。




わたしが「生理痛です」と英語の男の先生に嘘をついて授業を脱け出してきたのは、5分前。


男の先生はこの言い訳を使うと、絶対文句は言えないのだ。例え、それが2週間くらい続いても。実に愉快。




「どうせ暇でしょ、先生」

「忙しいですよ。養護教諭だって、一応先生ですから」




折角単位を削って遊びに来たというのに、先生は偉そうに固いことを言う。

そんなことを言う人の顔を拝んでやろうと、わたしはゆっくり体を起こした。


そして、ふと彼のいる長椅子を見ると。




ゴロンと仰向けになってDSをやっている男が、一人。誰だ、忙しいなんて言った奴は。




「ゲームしてるじゃん」

「違いますよ、最近はDSで勉強も出来るんです。志衣奈さん知らないんですか?若いのに」

「机の上にテトリスのケース置いてあるけどね」

「……」



しまった、と言わんばかりに彼は固まり、ゲームオーバーを知らせる暗い効果音が静かに流れる。

ツメが甘いんだよ、先生は。



< 15 / 50 >

この作品をシェア

pagetop