せ ん せ い
恋に落ちたキッカケは、本当に単純。
去年の秋。高校生活の楽しさが大分わかってきた頃。
……父親がリストラにあった。
まぁ、不景気だから仕方ない。
そう自分に言い聞かせながら、収入を少しでもアシストするため、登校前と放課後をバイトに費やすハメになったわたし。
家族が食べていくために、わたしはバイトの鬼と化した。
そんな最中出会ったのが、宮田先生。
うちの学校は、化粧禁止パーマカラー禁止バイト禁止、と校則が厳しくて。だからわたしは学校から離れた隣町のコンビニで、バイトを始めた。けれど。
宮田先生は、その町の住人だった。しかも、毎朝そのコンビニにやって来る常連客。
バイト初日に彼の姿を見たときは、マズイ学校にバレる、と思って当然焦ったけれど。
先生はわたしに何も言わなかったし、むしろお会計の時も彼がずっと下を向いていたので、あぁ、養護教諭が全校生徒の顔なんて覚えてるわけ無いか、とその時は胸を撫で下ろした。
「いらっしゃいませー」
彼は毎朝、ほうじ茶と298円ののり弁を持ってレジへやって来る。
そして必ず「マイルドセブンの1ください」と、煙草を買うのだ。
ほうじ茶とのり弁とマイルドセブン。合わせて855円。そして彼は必ず千円札で支払いをし、お釣りは決まって145円。完璧に体が覚えてた。
だからわたしは、いつも先生がレジに来る前にマイルドセブンを棚から出して、145円の準備もして、彼のお会計を待つ。
それが、わたしがバイトを始め、先生に恋に落ちるまでの行動パターンだった。
だけどあの日。
お決まりのパターンは全て覆された。