せ ん せ い
盗まれました。
「わたしの、数学の課題」
「よし大槻、廊下立ってろ」
「ちょ、そこは教師として『お前、いじめられてるのか』って心配す……」
「水がたっぷり入ったバケツ両手に持って立ってろ」
「ちょっと斎藤先生、聞いてください」
「誰が聞くか、進級してから一度も課題出さないお前の話なんか」
気付けば犬猿の仲になっていた斎藤先生の担当は、大嫌いな数学。課題なんて出されても、解けるはずが無いじゃない。
わたしの苦悩も知らずに頭ごなしに怒るなんて酷い。毎回職員室に呼び出される度、わたしは"盗まれました"とか"間違えてトイレに流しました"とか"自然発火しました"とか、愛嬌のある言い訳を考えてきているというのに。
しかも何が一番酷いって、教師の癖にわたしの言い訳を一度も信じたことが無いってこと。
「大槻ー」
イラついたような表情で、先生は大きな溜め息を吐いた。
イライラしたいのはこっちの方だ。疲れを癒すためにあるはずの休み時間に職員室で立たされ、お説教だなんて。
しかも今日は一段と話が長いぞ。