せ ん せ い
「…え?あ、いや…………」
突然の彼の言葉に、わたしは手にしていたメロンパンをポロリと落とした。
対応に困りつつ目の前の男の顔を見つめると、相変わらず彼は俯いたまま。
「…す、すいません……」
咳払いをして拾ったメロンパンを丁寧に置き直し、次はいつもと違う先生に動揺しながら、次はミルクコーヒーを手に取る。
すると、彼は再び口を開いた。
「アナタ、片原志衣奈さんでしょ。うちの学校の」
「………」
気付けばゴトリ、と派手な音をたてて、わたしはミルクコーヒーを落としていた。
気付いていたのだ、全部。
わたしがいつもマイルドセブンと145円を準備していることも、わたしが生徒だということも。
彼は、全て気付いていたのだ。
「な、713円になります…」
「はい、コレで」
背中にイヤな汗をかきながら、震える声で金額を伝えると。
差し出されたのはいつもの千円札……ではなく、五千円札。
「油断してちゃいけませんよ」
毎日同じだなんて。
そう言って、彼はニヤリと笑った。
うわー、わたしっていつも、"コイツいっつも前もって煙草と釣銭の準備してるな"って思われてたのかな。
そう考えると恥ずかしさと焦りが入り雑じり、顔を上げられないまま4287円を手渡し、続けて袋を差し出す。
すると、先生はその場でガサガサと購入した品が詰められたその袋をあさり始めた。
さっき買ったばかりの商品は、おそらく昼御飯だろうに。
…何してるの、カウンターの前で。
不審に思いながら、疑問を含んだ目線だけを先生に向けると。
「はい、これ」
ひょろりとした白い手が、わたしの方に伸びてきた。
掌の上には、さっき袋に詰めたチロルチョコ。
訳が分からないまま、わたしはそれを受け取る。
「毎日、ごくろうさま」
朝も、晩も。
そう付け加えて、彼はコンビニを後にした。
先生は、わたしが朝だけでなく夕方もバイトしていることまで知っていた。
まぁここは先生の通勤に使う道だから、おかしな話ではないけれど。
掌に残された、チロルチョコ。
それを見つめながら、しばらくそのまま立ちすくむ。