せ ん せ い
願いは、突然叶うものらしい。
すぐ後ろで聞こえた"空耳"。信じられなくて震える唇を手で覆いながら、わたしはゆっくり背後を振り返った。
「こんな所にいたんですか」
煙草を加えた、天パの猫背。
白衣は相変わらず古くさい。
「………先生…?」
「立入禁止ですよ、ここ」
「……何でいるの」
「探したんです、志衣奈さんを」
探した、って。どうして。
『私の人生狂わせる気ですか』
そう言った先生の背中を、わたしはずっと悲しくなりながらも覚えているのに。
「どうして?」
「急に保健室来なくなったから、気になりました」
「…なにそれ」
吐き出された白い煙は、木枯らしに吹かれて臭いを充満させること無く見えぬ方角へと乗せられる。
そんな煙のように、先生の頭のネジもどこか彼方へ飛んでいってしまったらしい。
まさか、わたしに投げ掛けた言葉を、忘れましたとは言わせない。
「わたしは…先生の人生狂わせる気なんて無いし、困らせるつもりも無いよ」
「志衣奈さん」
「ただ、好きだって……本気だってことは、分かって欲しい」
「その事なんですけど」
好きだと言って、キスもして。その後だから多少戸惑いはあるものの、恥ずかしいものなんて何も無くて。
ストレートに思いの丈をぶつけると、それは携帯灰皿に煙草を押し付けながら歩み寄ってくる彼に遮られた。
「あれから考えたんですが」
先生は、目線を合わせるようにわたしの目の前にしゃがみ込む。
「この間は、悪いことをしました」
「………」