せ ん せ い
「もっとちゃんと、受け止めるべきでした」
そう言って、彼は僅かに頭を下げた。
冬を目前としたこの季節。先生の髪はフワフワ揺れる。
人のいない、静かなこの空間で先生の声だけが淡々と響いた。
今の雰囲気の流れで、この間の発言を撤回してくれるのではないかと、勝手に期待して胸が高鳴る。
「だけど、困るのは事実です」
ズコンッと。
ストレートな言葉に、頭を鈍器で殴られたような衝撃を覚えた。
期待は一瞬で裏切られ。
胸を痛みつける言葉を再び浴びせるために、彼はわたしを探したのかと、先生を睨まずにはいられなかった。
「それは…わたしが生徒だから?それとも松本先生と……」
「松本先生と私は、恋人関係ではありません」
「じゃあ元カノか」
「……何でそんな風にばかり考えるんですか」
細い膝に肘をつき、頬杖をついた状態で彼は呆れたように溜め息を吐く。
微かに残る、煙草の匂い。
先生との距離の近さを感じながら彼を見つめると、開ききらない力の抜けた瞳に映る自分と目があった。
「だって…そうじゃなきゃ…先生みたいなモサくて無表情で死んだ魚みたいな目してるニートみたいな人が女の人の家に行ったり来させたりするわけ無……」
「志衣奈さん……暴言はやめて貰えますか」
目の前の死んだ魚の目はいつの間にか蔑むような瞳に変わり、「あ、ごめん」と思わず口をおさえる。
そして先生はまた溜め息を小さく吐いて、わたしに言った。
「松本先生は、私の姉です」
「は?」