せ ん せ い
「そういえば、坂本」
前髪からようやく視線を逸らしてくれた神原先生の口から飛び出したのは、私の肩が揺れちゃうような人の名前。
前髪を隠す手は、思わず額に留まった。
「付き合い始めたんだってな、2組の高橋と」
受験前のクセに呑気だな、と先生は鼻で笑う。
……てか何で、急に坂本の話するの。
まさかこの人、ワザトか。
昨日見事にパッツンヘアーにした私。
何か反応して貰えるかな、なんてドキドキしながら登校した私を待っていたのは、坂本の幸せな報告だった。
付き合ったんだって、2人。まるで他人事のように感じちゃうほど、頭の中は真っ白になって。
良かったじゃんおめでとう、と中身の無い言葉で祝福した。
切るんじゃなかった、本当。無駄だったよ。
似合わない、こんな前髪私には。
だけどあの子には似合っちゃう。
パッツンだけじゃない。
ベージュのカーディガンも
華奢なハートのネックレスも
薄いピンクのマニキュアも
ふんわり巻いた髪も
ほんのり紅いチークも
………坂本も。
全部彼女には似合ってる。