せ ん せ い






「ホント…呑気ですよね」



先生の言葉に、ハハッと笑ってみせた。

だけど、前髪を隠していた両手は、いつの間にか顔全体を隠していたみたいだ。



隠したって、意味無いのに。




涙はポタポタと机に落ちる。





こんなの、泣いてるのバレバレじゃないか。



放課後初デートするんだと、幸せそうに笑う坂本を見送った後。何故か私は立てなかった。

クラスメイトが皆帰っても、少しずつ空が紅くなっても、どうしても帰る気になれなかった。



「荻野、ごめん」



涙が止まらなくなった私の頭を、先生はそっと優しく撫でる。


謝らなくて良いよ、どうせ家に帰って泣くつもりだったんだ。予定が少し早まっただけ。



だから、同情しないで笑ってください。




髪型も服も何もかも。
背伸びしすぎで似合わない私を。



高橋さんになりたかった。坂本の好きな、高橋さんに。結局なれなかったけど。




偽物の私に残されたのは、個性のカケラもない、素の自分で勝負出来ない無様な自分。


とんだピエロだ、私は。




「荻野」

「……」


名前を呼ばれて鼻をすすると、先生は私の手を握りしめた。



温かくて、大きい。
困難になっていた呼吸が、少しだけ楽になる。




「似合ってるよ、前髪」




そう言って顔を覗き込んできた先生。




「……ほんと?」

「うん、荻野なら何でも似合う」

「なにそれ、テキトー…」



ハハ、と。思わず笑うと、何故か先生も嬉しそうな顔をする。





だけど、先生。

その台詞、坂本に言って欲しかったよ。



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