せ ん せ い
「先生、ありがとう…ございました」
私の涙が止まったとき、空は既に藍色だった。
まぶたはかなり重くなったけど、家に帰って1人で泣いていたら、と思うと先生の前で泣ききって良かった、と思った。メンタル的に支えられた気がする。
握られていた手はまだ暖かく、撫でられた髪の感触も直ぐにでも思い出せそうだ。
暗い廊下を肩を並べて歩いていると、ふと先生がこっちを向く。
「元気出せよ」
きっとこの人は、励ましたりするの得意じゃないんだろうな。
ありきたりな言葉だけど優しさは十分に伝わってきて、腫れた目なりの笑顔を返す。
「優しいですね、先生」
「今頃気づいた?」
少し褒めると、先生は次はにやにや意地悪な笑顔で私の顔を覗き込んむ。
今頃、じゃないけどね。
前々から、先生の優しさは分かってた。
進路で悩んだとき、人間関係で悩んだとき、家族関係で悩んだとき。放課後教室でボーッとしていたとき、先生はいつも話しかけてくれたから。
「だから、前から気付いてました」
言うと、先生は満足げに笑って照れるように俯いた。
「やっぱ優しいだろ、先生」
「自分で"先生"って言っちゃうんですね」
「うん、先生は坂本よりも優しいよ」
「……なに張り合ってんですか」
坂本はまだ学生で、先生よりも年下なのに。
中学生じゃないんだから。大人でしょう、先生は。
「坂本に勝って、嬉しいんですか」
なに競ってんの、という意味を込めて、苦笑しながら聞くと。
「嬉しいよ」
すぐにそんな返事が返ってきたものだから、咄嗟に先生の顔を見上げる。