せ ん せ い
「今まで散々優しくしてきたし、おれのこと好きになる理由としては十分だろ」
よくもまぁ、そんなセリフを笑顔で言えるものだ。
なんつー自信ですか!!
「け、計算だったの、あの優しさ!!」
「だーかーら」
口さえも上手く動かないから、カミカミの口調で喚くと。
先生は息がかかるくらいに顔を近付けた。
最新のプリクラ並みに、自分の目が大きくなるのが分かる。
先生はそんな私をおもしろがるように口角を上げた。
「好きな奴にしか優しくしません」
さっき聞いた言葉を、もう一度。
次は笑顔で繰り返す。
「…か、からかってるんですか…」
「からかってないけど?」
ゆっくりと顔を離し、綺麗な笑みを浮かべる先生。
よかった、周りが暗くて。紅い顔を見られずに済んだのが、かろうじて動く心臓の唯一の救い。
握られている手を引っ張られるようにして後にした、踊り場。
再び歩き始める直前、先生は私を見つめてこう言った。
「さっさと惚れろ」
うわ何様、と思ったと同時に、パチン、と。
頭の中で何かが弾けたような気がした。
今日、失恋しました。
心の傷は、やっぱり少しは痛みそうです。
だけど。
軽い女みたいかもしれないけど。
私はきっと、先生のことを好きになる。
偽物じゃない、ありのままの自分で。
fin.