せ ん せ い
「だから、原点Oからの軌跡Pね式と、χの値を比較して…」
「わかんない。マジでわかんない」
「……だから、どこが」
勉強を始めて、約2時間。
心なしか、先生の顔がやつれたような気がする。
私だって、そんなに性格が悪い訳じゃない。捕まった以上逃走は諦めてるし、先生は真摯に教えてくれているから、真面目に話は聞いている。だけど。
「何もかも、わかんない」
申し訳ないけど、先生の溜め息を止めてあげることは出来ない。本当に分からないんだもん。
「大槻…分からないとこ、全部言って良いから」
それでも、諦めずにこう言ってくれる先生は、あまり認めたくはないけれど、教師の鏡だと思う。
一生懸命だなぁ、なんて。
まぁ、この際だから分からないところ全部言わせてもらうけど。
「まず何でχとかPって置かなきゃなんないのか分かんないし、面積求めたいなら周りの長さ計って求めれば良いのに何で軌跡求めなきゃなんないの、てかそもそも円から線延ばして三角形作ってその面積求めるなんて、日常生活で絶対無いで…」
「大槻、分かった。もういい」
分かった、なんて言っておきながら、今までで一番大きな溜め息を吐く斎藤先生。
こんな風にしたのはわたしだけど、なんだか申し訳なくなってきた。
頭を抱えて俯く先生の顔を、下からチラリと覗き込む。