vivid
 そしてシュリーという女は何事もなかったかのように去っていった。鞭を木の枝に巻きつけて上へ上がると、あっという間に木々の陰へと消えていく。

「終わったよ、いるんなら出ておいで」

 思わず肩が跳ねた。このまま隠れ続ける理由はないため素直に木陰から出る。

 ただでさえ訊きたいことが山ほどあるのだ。

「おや、ほんとにいたのかい。さっきのでビビって逃げちまったのかと思ったよ」

「……さっきの流れ弾なら掠ってさえいない、あれくらいのことで誰が逃げるか」

「へぇ、そうかい…………ああ、なるほどね。アンタ、"訊きたいことが山ほどある"って顔をしてる」

「わかっているなら話が早い、なぜ、」
「おっと、質問責めはあとだ」

 女は俺の唇に人差し指を押し当てた。どうしてこの女は、こうもベタベタと人に触れてくるのか、不可解なことばかりだ。

「アタシは三日後には戻らなきゃならないし、何よりリミットは一年しかないんだ」

「だから、その一年というのは、」
「まとめて説明してやるよ、人捜しのあとにね」

「人捜し…?」

「ああ。アンタ、この十年間"仲間"に会ったことはないだろう?」

「"仲間"……………まさか、」

「その、まさかだ。アンタ以外にも"白狩り"の生き残りは存在するんだよ」

「だが、なぜあんたが、そんなことを、」
「言ったはずだよ、あとでまとめて説明する。アタシには、あまり時間がないんだ」

 突き放すように、そう言ったかと思えば今度は手を差し出される。発言と行動の脈絡のなさに混乱しつつ女の表情をうかがえば女は微かに微笑んでいた。

「どうする?ついて来るか来ないのか。強制はしない、アンタ次第だ」

 伸ばしかけた手が止まった。
 訊きたいことが、知りたいことが、山ほどある。

 この女は何者なのか、一年後に何が起こるのか、この世界が黒一色で染まるとはどういう意味なのか、グレイ師団の隊員かもしれなかったあの男について女は何か知っているか、"白狩り"の生き残りに本当に会えるのか。知りたい。

 だから、迷わない。

 俺は女の手をとった。握りかえされたときの笑顔は今までに見た笑顔の中で一番、年相応なものに思えた。
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