vivid
 は……?

 オレのささやかなお願いの上に降ってきたのはオレの上に乗っているおねえさんの声ではなく若い男の声だった。

 いつの間にそばに来ていたんだろう、少なくともオレよりは背の高そうな男が、おねえさんの脇に腕を差し入れ羽交い締めでもするかのようにして持ち上げた。オレの腹は(なんかちょっと残念なような気もするけど)途端に軽くなる。

 あ、このあんちゃん、よく見るとスゲェかっこよくね…?

 いかにも女がキャアキャア騒ぎそうなキレーな顔をしている。

 ん?ちょっと待て、さっきこのあんちゃん、なんて言った……?

「あ、あんた、今"キティ"って言った?」

「……ん?ああ、言った」

「じゃあ、このおねーさんが"キティ"?」

「そうだ」

 おねえさんをヒョイっと持ち上げて立たせながら、若い男は渋る様子もなく肯定した。

 えええええ!まじかよ!なんか結構あっさり見つかっちゃったよ、"キティ"!!

 座り込んだまま展開の早さにおいて行かれ気味なオレとは違ってオレの上から退かされたおねえさんは、どうやらご立腹なご様子だ。

「なんだい、そんな簡単に言っちまったらつまらないじゃないか」

「つまる、つまらんの問題じゃない。相手は子どもだ。いきなり銃を突きつける必要はないだろ」

「試したんだよ、アンタのときみたいに」

「だからって、どうしてあんたはそうも人の上に乗っかるのがすきなんだ、理解できない」

「馬鹿お言いでないよ。アタシだって乗っかる相手は選ぶさ」

「…………一体、今ので何を試したんだ」

「内緒。まあ合格ってところかねぇ。誰かさんと違って、このボウヤは頭も打たなかったようだし気絶もしてないし」

「俺だって気絶はしなかった」

「でも頭は打っただろう?」

 なんスかコレ。内輪もめですか?痴話喧嘩ですか?

 いまだに座り込んだままのオレを放置して"キティ"ちゃんとイケメンは仲良く口喧嘩を繰り広げていた。

 ニヤニヤと笑う若い女と顔を真っ赤に染める若い男、美男美女だけに絵になるが、どう見ても現状、男の方が不憫に見える。

「さて、お遊びは、この辺にしとこうかねぇ。ボウヤ、名前は?」

 "キティ"がオレに手を差し出した。オレは、それを数秒間みつめる。みつめるだけで手は取らない。
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