vivid
「初対面じゃあないんだよ、アタシとアンタ。十年前、"白狩り"の前に、ね」

「"白狩り"…」

 キティは十年前の、五歳の頃のオレを知ってる。

 オレは知らない。

 一歳のオレも、二歳のオレも、三歳のオレも、四歳のオレも、五歳のオレも、知らない。

 オレは自分を知らない。

「あんた、知ってんのか」

 生まれてから五年分の空白を埋めたい。

「オレには五歳以前の記憶がない」

 きっと今オレの手は白くなっていると思う。それだけの力で拳を握っている。

 キティは何も言わない。ただオレの次の言葉を待っていた。

 先に口を開いたのは思案顔をしたイッシュだった。

「五歳……覚えていなくても無理はないと思うが、」
「全くだ!全く記憶がないんだよ!普通はボンヤリとでも覚えてるもんだろ!!」

 あんたにオレの気持ちが解るかよ!そこまで言いそうになったけど、なんとかこらえた。

 イッシュはバツの悪そうな顔をして、それ以上は何も言わなかった。

 たかが五年分、そう思うかもしれない。親なんてオレが五歳になる前からオレのそばにはいなかったのかもしれない。思えばジィちゃんはいてもバァちゃんはいなかった。ジィちゃんはオレに嘘をついたんだろうか。

 いずれにせよオレは知りたい。十年前、キティが見たオレを。オレが知らないオレを。

 それにオレはジィちゃんを信じたい。ジィちゃんがオレに嘘をつくなんて有り得ない。

「それで?」

 キティがオレの肩に手を置いた。問いかける声は今までで一番、優しい気がした。

 拳の力は弛んでも俯いた顔は上げられなかった。

「アンタは、どうしたいんだい?ルーイ」
「……知りたい」

 緩んだ拳を、また握りしめた。爪がくい込んだって構わない。

「ジィちゃん死に際に言ったんだ、"イエロー"に行って"キティ"を探せって」

「"イエロー"に行け、ねぇ。なるほど」

「なあ、教えてよ。あんた知ってんだろ?だからジィちゃんは、あんたを探せって言ったんだよ、絶対。
十年前の"白狩り"、そのせいでオレの記憶はなくなったわけ?じゃなきゃ少しも覚えてないなんて可笑しいし、ソートーやばかったって聞くし、"白狩り"」

「わかったわかった。とりあえず落ち着きなよ、ボウヤ」
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