vivid
 イッシュは歩く速度を緩めた。顔は前を向いたままだ。

 たぶん話すべきか話さないべきかで少し考えてるんだと思う。

 チラリとオレの方に視線だけをよこす。オレは、ただ見つめ返した。相手が折れるまでは逸らさない。

 しばらくするとイッシュは溜め息を吐いた。今度こそオレの方に顔を向けて"そのうちわかることだろうが、"と前置きしてから話し始める。

 イッシュが語ったキティについての情報は大きく分けて三つだった。

 一つ目はキティが"黒"であること。

 二つ目はキティが王室の人間であるかもしれないということ。

 三つ目は直接キティに関することじゃあないけど"グレイ師団"というブラックの国王お抱えの軍隊が存在する、ということだった。

 イッシュの説明は簡潔で、わかりやすかった。ガキのオレでも理解できたくらいだし。

「"グレイ師団"……聞いたことねーけど」

「ああ、俺もだ」

「……なんか訊いたら訊いたでオレの中の"キティ"像が、よくわかんなくなってきたかも」

「説明してやった俺の身にもなれ。俺だって、あの女については訊けば訊くほど解らなくなる」

「まあ、説明自体はわかりやすかったよ。ありがとな」

 ポンと背中の辺りを叩くとイッシュは不思議そうな顔をしてオレを見た。

 なんだよ、という意味を込めて顔をしかめるとイッシュは少しだけバツの悪そうな顔をした。そういや、さっきもこんな顔をしていたような気がする。

「……怒ってはいないのか」

「え、だれが?オレが?」

「お前しかいないだろう」

「なんで?……ああ、もしかしてキティに押し倒されて銃突きつけられたこと?別に怒っちゃいないよ、ある意味おいしい思いしたし、」
「そうじゃない」

「じゃあ何」

 キョトンとした顔をしているであろうオレをよそにイッシュは突然、止まった。オレもつられて止まる。おまけに体ごとオレの方を向いたもんだからオレもつられて向き合った。

 一体、何がどうしたんだ。
< 31 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop