vivid
「……"覚えていなくても無理はない"と俺は言った。無神経だった。悪かったと思っている」

「え…えーと、ああ……」

 オレが"五歳以前の記憶が全くない"って言ったときか。そんなことを気にしてんのか、このイケメンくんは。

 オレ自身、言われなければ忘れていたことだ、何も気負う必要なんてない。

「いいよ、そんなん全然。オレも、あのときは感情的になって悪かった」

「………そうか、」

 それでも納得のいかなそうな顔をするのでオレは少しふざけた調子でイッシュの前に手を差し出した。

「なんだよ、気が済まない?だったら仲直りの握手でもするか?別に喧嘩したわけじゃないけど」

 冗談のつもりだった。

 でも差し出した手は自分よりも少なくとも一回りは大きい手によって、しっかりと握り返された。

 ああ、こいつ、律儀っていうか、真面目な奴なんだ。

 なんとなく嬉しくなって笑った。イッシュも、うっすらと笑う。

 よかった、こいつとは上手くやってけそうだ。キティは兎も角。

 気分がよくなったところで、どちらともなく手を離して、また歩き始めた。

「……キティについて、いくつかお前に話さなかったことがある」

「聞いちゃまずい話、ってこと?」

「いや…そういうわけじゃない。でも、この話はキティから直接聞いた方がいいと俺は思う」

「そ。なら、いいよ。話してくれて、ありがとな」

 風景を彩る景色から緑が消えつつある。イエローは、もう近いんだろうか。

 イッシュと会話と呼べる会話をしたのはイエローまでの道中では、このときが最後だった。

 野郎二人が肩を並べて黙々と歩き続けたのだ。

 それでも不思議と気まずさを感じなかったのは隣を歩いていたのがイッシュだったからこそなんだと思う。
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