vivid
「そ、そうなんだ……が、頑張れ…?」

「なんで疑問系なんだよっ」

 会ったばかりで名乗ってすらいないのに馴れ馴れしい、肩を組むだけじゃ終わらずに今度は髪をガシガシとかき回された。会ったばかりで変なことを訊いたオレもオレだけど。

 でも、まあなんだ。オッサンはキティに片想いしちゃってるわけだ。キティの様子見た感じだと、そこまで一方通行ってわけでもなさそうだけど。

 乱された髪をなおしながら若干どうでもいいことを考えていると前を歩いていたイッシュと目が合った。

"ルーイ"

パクパクと口だけが動いて次に視線が隣にいるオッサンへと移る。

 気づいたオッサンが"なんもしちゃいねぇよ?"と言ってオレの頭をポンポンと軽く叩くとイッシュは確認するみたいに、またオレを見た。

 つーか、このオッサンほんっと馴れ馴れしい…!

 苦笑しながら手をヒラヒラと振れば頷いて前に向き直った。

 オレは隣を歩いているオッサンを見上げてみた。

「ん?なんだよ」

「いーや、別に」

 悪そうな奴には見えないけど、だからって悪い奴がミンナ悪そうな顔をしているとは限らない。

 いまだに頭の上に乗っている馴れ馴れしい手を払いのけてオレはイッシュの隣まで走った。

 イッシュもオッサンも、どっちにしろ二人とも会ったばっかってことに変わりはないけど、どっちが信用できるかって訊かれたら断然イッシュだ。でも…。

 "どうかしたのか"と訊いてくるイッシュにオレは別に、と短く答えた。

 でも、一番信用できないのは今オレの目の前を歩いてるキティだ。

 黒ずくめな後ろ姿と黄色の景色の色合いが蜂みたいだなあ、とボンヤリ思った。
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