vivid
 俺は一瞬、自分の耳を疑った。

 "白狩り"と似たようなことが、また、起こる…?

 あっていいはずない、そんなこと。

 膝の上に乗せた手のひらをテーブルの下に隠して固く握った。今ここで俺が我を失ったら話の腰を折ってしまうことになる。

「平たく言えば、そうなるのかねぇ。もっとボウヤにもわかりやすいように言えば……一年後、"黒"以外の人間が大量虐殺される」

 キティは一切、感情をにじませない声でそう言い切った。

 リグレイの深い溜め息が響いた。

 俺は声さえも発せられない。

 ……………信じられない。

 繰り返されるのか、また、あんな、惨劇が、地獄が。

 そんなこと…。

「そんなんダメじゃん!!」

 バンッとテーブルを叩く喧しい音がしてハッと我に返る。テーブルを叩いたのはルーイだった

「ホントに、そんなことになったらオレ確実に死ぬし……たっ、大量虐殺!?ないって!マジありえねーよ!!つーか、なんでミンナそんな平然としてられるわけ!?」
「いーい質問だ、ルーイ。ご褒美に、いいことを教えてあげよう」

 平然となんてしていられるわけがないだろう!と叫びそうになったときだった、ルーイが喋ったあと間髪いれずにキティが口を開いたのだ。楽しげに、ルーイの唇に人差し指を乗せて。

 リグレイが小さな声で"うわ、ヤな予感"と呟いた。

「"黒"以外の人間の大量虐殺……通称"オオカミ計画"。この馬鹿げた計画を止める方法が一つだけある。ただし命がけだ…聞くかい?」

「……そこまで言っておいて何を今更」

「聞かねーわけねぇだろ」

 震え始めていた拳と震えそうな声に力を入れて、なんとかして平静を装った。

 気乗りしない様子のリグレイも諦めたように頷く。

 ルーイは一瞬だけ躊躇う素振りを見せたかと思えば首振り人形のようにコクコクと何度も頷いた。

 俺たちの反応に満足したのかキティの指先がルーイの唇から離れていく。

 事は、この女の思惑通りに進んでいるのだろう。

 気にいらないが仕方がない、あの"白狩り"のような惨劇を繰り返すくらいなら俺はなんでもする、そんな気にさえなっていた。
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