vivid
 夜。

 リグレイはキティが出て行ったあと"飲みに行ってくる"と言ったきり戻ってこない。

 ルーイはイエローまでの道中、歩き続けた疲れがたまっていたのか、グッスリと眠っている。それでも、それなりの警戒心はあるのか短剣をホルダーごと胸に抱いていた。

 薄手の毛布を肩までかけ直してやりながら、ふと時計を見た。

 もう十一時か…。

 そろそろ日付がかわる。

 身体はそれなりに消耗していた。寝たくないわけではない。ただ一向に眠気が襲ってこない。

 そんなときだった。

 髪が風で揺れている。

 窓を背にして立っていた俺は閉まっていたはずの窓を振り返った。

「夢見でも悪かったのかい?」

 なんとなく予想はしていたが、そこには窓の桟に手をついたキティがいた。そのまま乗り上げて窓の桟に腰掛けて足を組む。

「……あんたか」

「随分と不用心なんだねぇ?ダメじゃないか、鍵をかておかなくちゃね」

「"城"に帰るんじゃなかったのか」

 つっけんどんにそう応えると"冷たいねぇ"と笑いながら俺の肩に手を置いた。

「なに、言い忘れたことがあったのさ。城へは、これから帰る」

「簡潔に頼む」

「本当に、つれない男だねぇ」

「"簡潔"に、と言ったはずだ」

「わかった、わかった。よーくお聞き」

 何が面白いのかクスクスと笑うと手を置いた俺の肩に体重をかけつつ耳元に唇を寄せてきた。

「……そ、んなに近くなくても聞こえる」

「ルーイが起きちまうだろ」

「り、理由になってない」

「いいから、お聞き。"ゲーム"の開始時間は今から約一時間後、日付がかわってからだ。アンタたちがアタシの"仲間"だってことは、まだ師団には知られちゃいない。そこまで警戒することもないけど、灰色の軍服を見かけたら、それなりの注意は払っとくれよ」

「……わかった。わかったから離れろ」

「本当に可愛いねぇ、アンタって奴はさ。言わなくてもわかると思うけど顔真っ赤だよ」

「………………うるさい」

 肩に置かれた手を強引に払う。

 眠っているルーイへの配慮か、キティは口元を手で覆いながら笑っていた。起こすつもりがないなら、これ以上、喋らないでほしい。

 そもそも俺が起きていなかったら、どうするつもりだったのだろうか、この女は。

もし俺が寝ていたとしたら叩き起こしただろうな。あり得る。
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