vivid
▼ イエローとクリムゾン
(キティ視点)


 この十年、"子猫"のふりをし続けてきて正解だった。

 "軍隊"が"国王陛下"の命令に忠実な"犬"だと言うのなら、アタシは"国王陛下"に従順な"猫"。足元にすり寄って喉を鳴らす、可愛い可愛い"国王陛下"の"子猫"ちゃん。

 "当代国王の直属の部下"と言われれば、ある程度聞こえはいいかもしれないが正式な役職名も仕事もない。平たく言えば"国王陛下"の付き人。侍女となんら変わりない。身のまわりの世話をして望まれれば寝食を共にする。

 そんなアタシをよく思わない者たちが、いつしかアタシを揶揄するように、こう呼び始めた。

"国王陛下の愛猫"と。

 "愛猫"に始まり"子猫"、今ではスッカリ"キティ"で定着してしまった。

 なんと呼ばれようと構わない。

 アタシをただの"従順"な"子猫"だと思っているなら大間違いだ。

 もし本当に"従順"なら、勝手に城を出て外をうろついたりしない。アタシが城を出ていく度、ヘーカの癇癪に使用人たちが悩まされることもない。

 仮初めの"従順"が許される理由はヘーカの異常なまでのアタシへのご寵愛にある。

 それを利用したおかげで今日まで"国王陛下の愛猫"でいられた。

 だからアタシは、ただの"子猫"ちゃんじゃあない。

 お前のような女に"子猫"を意味する名前なんぞ似合わないと言うのなら、それはアタシにとっては賞賛の言葉に値する。

 それでいて"キティ"と呼ばれることに全く不快感はない。

 アタシが"キティ"でなければ"オオカミ計画"の存在すら、アタシの耳には入ることはなかっただろうから。
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