vivid
 俺の後頭部は情けないことに再び地面と対面するかたちになる。顎の下から喉にかけての圧迫に呻くことしかできない。

 まったく相手の意図が汲めやしない。金品目当てなら盗む隙は幾らでもあった、未だに"colorless討伐"を語る黒の者であるのなら俺は既に殺されていただろう。何をするでもなく(まあ多少の被害は被っているのだが。主に後頭部に)こうして生かされているということは、この女には他に目的があるとでも言うのだろうか。

「…何が、目的だ」

「おや、口がきけたのかい。まぁた気絶しちまったのかと思ったよ」

「意識は、あんたが降ってきたときから、ある」

「そうかい。なら、今からアタシが訊くことに答えてもらうよ」

「……内容に、よるな」

 ニヤリ。そんな擬態語が相応しいであろう笑い方をすると、女は銃を太ももについているホルダーにおさめた。

 声は、若い。しかし、童話に登場する老婆、あるいは魔女のような喋り方をする。加えて女の割には口が悪い。
 剣の柄から手は離せない。相手が黒の者であることに変わりはない。

「アンタの"色"は、どこにあるんだい?」

「…"色"?」

「"カラーコード"だよ。百聞は一見に如かず、ってねぇ。訊くより見た方が早い」

「見て、どうする」

「へぇ?渋るってことはアンタ…」

 真っ黒に塗られた爪が、こちらに迫る。女の両手が俺の両頬に添えられた。耳元が生暖かい。気持ちが、悪い。

 そして、次に囁かれた言葉に、俺はとうとう鞘から剣を抜いた。

"『colorless』かい?"

 抜き身の剣の先は女の髪を掠めただけで何も切れやしなかった。ヒラリと軽く身を翻して俺から間合いをとる。

 嫌悪感に、耳を服の袖で擦った。

 許さない、許さない、許さない。あの単語は白の者に対する罵倒だ。許さない、斬る、殺す。"黒゙が憎い、"黒"は憎い。

「おー、コワいコワい」

「その名で呼ぶな」

「そういきり立つもんじゃないよ。少し確認をしただけさ」

「"白"を馬鹿にしたことに変わりはない」

「手っ取り早いんだよ、アンタたち白の者は、ああ呼ぶと怒るもんだって聞いてたからねぇ」

「うるさい。黙らないなら黙らせる」

「悪かったよ。アタシが悪かったから。その物騒なもんを仕舞うんだ。おちおち話もできやしないよ」

 女は腕を組みながら、そう言った。謝りながらも偉そうな態度が崩れることは全くない。
< 6 / 100 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop