vivid
「コルセット絞めなきゃなんないと思うと憂鬱でねぇ。ドレス着るのなんて一体、何年ぶりだろう」

「まあ兎に角、明日は一日、城に居ろよ?シュリーも俺も楽しみにしてたんだ、お前さんの晴れ着姿をな」

「ご期待に添えられればいいけど、どうだかねぇ」

 尚も皮肉めいたことしか言わないアタシの頬にグランの手が触れた。

 ゴツゴツとしていて、かさついた感触はお世辞にも心地よいとは言えない。それでも冷たすぎない体温に、どこか安心した。

 アタシの二十回目の誕生日は、あと十分もすれば終わってしまう。

「なんだい?」

「いや……デカくなったと思ってな」

「どうりでアンタも老けたわけだよ」

「そうだな…」

 グランは歯切れの悪い返事をしながら親指の腹でアタシの頬を撫でた。

 微笑んでいるのに、その表情はどこか悲しげにも見える。

「聞いたよ、陛下がお前さんに送った"誕生日プレゼント"」

「アンタにしちゃ早耳だねぇ」

「召集がかかったんだよ。陛下直々のご命令でな」

 グランの言う"誕生日プレゼント"とは、つまるところヘーカとアタシの"賭け"を意味する。一年後、賭けに勝った方は生きて負けた方は死ぬ。

「まったく随分な"誕生日プレゼント"だ。少なくとも女の誕生日にくれてやるもんじゃあねぇ」

「そうかい?アタシにとっちゃ最高のプレゼントだよ」

「俺には、そうは思えない」

 頬に触れていた体温が離れた。かわりに両肩に手を置かれる。

 グランの表情に、もう微笑はない。ただ悲しげに顔を歪めていた。怒っているようにも見える。

 ああ、どうして、この男は……。

 そんな顔をされたら冗談めかそうにも上手くいきやしない。

「お前さん、負ければ死ぬんだぞ」

「そうだねぇ」

「お前さんと陛下の"ゲーム"のルールは師団の幹部全員の耳に入った。ほとんどの奴らが陛下が勝つ方に賭けてる」

「そりゃまた悪趣味な賭けだ」

「どうだろうな。俺には、それが妥当だと思えてならん。どう考えたって、お前さんは不利だ」

「不利だろうが有利だろうが、アタシは勝ってヘーカを殺すよ」

「そりゃあ、お前さんは、そうだろうよ。そうじゃなくて……違うんだよ、俺が言いたいことは、そういうことじゃ………」

 肩に置かれた手が微かに震えている。

 何を言ったところでアタシがアタシの意志を違えることはないと解っているだろうに。
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