vivid
 グランは俯いた顔を情けなく歪めているに違いない、声からもだんだんと力が抜けていっている。

「やめとくれよ、いい年して小娘の前で泣く気かい?」

「…泣いてねぇよ」

「だったら顔を上げとくれよ」

「……心配なんだ」

「わかってるよ」

「いや、お前さんは、ちっとも解っちゃいない」

「………アタシに、どうしろって言うんだい」

「俺を"仲間"にしろ」

 俯くことをやめた顔は真剣そのものだった。

 確かにルール上、アタシは"仲間"をつくってもいいことになっている。

「馬鹿お言いでないよ」

「師団の人間を"仲間"にするな、なんてルールはなかったはずだ」

「やめとくれよ、やりずらい。刺客の話も聞いたんだろう?」

 レッド、ブルー、グリーン、ブラックの四つの国と、イエロー、シアン、マゼンタの三つの中立地帯。そこへは刺客としてグレイ師団の幹部が送りこまれることになっている。

 刺客がアタシに提示する条件に関しては特に制限がない。ただ、その条件にヘーカが関与してはいけない、というルールもない。

 もし、もしも仮にヘーカがグランを刺客に命じたとする。グランが提示する条件をもヘーカの命令によって決められてしまったら、例えば"キティがグランを殺す"といったような条件を命令によって下されてしまったら………考えたくもない。

「……ああ、」

「だったら本当にやめとくれよ。アンタに変に動かれてもアタシの首を絞めることになる」

「それでも…」
「心配だってのかい?」

「……悪いか?考えてもみろ、ルールは穴だらけだ。都合が悪くなれば陛下の思い通りになっちまうぞ。一年の間、お前さんを殺さないってのも本当なんだか…」

「ヘーカは、約束は守るよ、必ずね。それに穴だらけのルールはアタシからしても都合がいい。やろうと思えば、いくらでも逆手にとれる。ものは言いようさ」

 そうは言っても目の前の男は未だ得心のいかない様子だ。肩に置かれた手も離れることはない。

「……心配性。過保護」

 冗談めかして笑うと、やっといつもの調子を取り戻しはじめたようで頬をつねってきた。

 心配されることが特別いやなわけではない。自分みたいな人間を、そんな風に思ってくれる人間もいる、その事実が純粋に愛しい。ただ、だからこそ自分のことで、そこまで思い悩んでほしくない。

 相手がグランなら、尚更。
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