vivid
「ところで、アンタはアタシにくれないのかい?」

「あ?」

「"誕生日プレゼント"」

「ああ……陛下よりはマシなもんをくれてやるつもりだ」

「へぇ、なんだい?」

「なんでも。お前さんのすきなものを」

「一番困るんだけどねぇ、そういうの」

「まあ、そう言うなよ」

「物じゃなくてもいいかい?」

「"なんでも"って言ったろ?」

 そこまで言うなら、お言葉に甘えて。

 軍人らしい体躯をした男の首に遠慮なく腕をまわした。思いきり体重をかけたところで、よろけもしない。

 少しくらい驚いたっていいだろうに、と内心、毒づいた。

「…っと。それで?俺にどうしろって言うんだ」

「黙って抱きしめかえしてくれればいい」

「それだけか」

「それだけさ」

 腰にまわってきた腕は、あまりに自然だった。

 子どもの頃は、よくこんな風に抱きしめられたこともあれば抱きかかえられたこともある。

 父様、先代国王の忠臣だったグランは幼少の頃からアタシの面倒を見ることも少なくはなかった兄のような存在でもある。父と娘ほどの年の差こそあれど距離感は昔から変わらない。

 唯一、"居場所"だと思えるもの。

 首筋に頬を寄せて目を閉じた。髪を撫でている大きな手が優しい、あたたかい。

「こんな風に甘えられると、お前さんが"子猫"だなんて呼ばれる理由も解らないでもねぇな」

「アタシが甘えるのなんてアンタくらいだよ」

「……ものは言いようだな」

 さっきまで憎まれ口しか叩かなかったくせして、と不満を口にしつつも声は笑っている。

 髪を撫でていた手は頭を抱え込むようにして添えられた。

 せめて二十回目の誕生日が終わる瞬間まで、こうしていたい。

 城の敷地内にある時計塔の鐘は夜中の十二時ぴったりに鳴り始める。何百年と経っていても時計塔の時計が狂ったことは一度もないという。

 固い身体に自分の身体を預けながら、このままだと寝てしまいそうだ、と閉じていた目を開いた。

 首を僅かに動かして相手の様子を窺うと先ほどの自分のように目を閉じてアタシの髪に頬を寄せている。

 かと思えば目が開いて視線が、かち合った。

 なんだか急に照れくさくなって逸らそうとすれば頬にかかった髪をよけながら微笑まれてしまう。

 観念して微笑みかえしたアタシの耳に、夜中の十二時を告げる鐘の音が響いた。
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