vivid
「お取り込み中、悪いんスけどー、」

 二十回目の誕生日が終わった瞬間、鐘の音をバックサウンドにして若い男の声が耳に届く。もちろんグランの声ではない。

「こーんなとこ陛下に見られでもしたら殺されちゃいますよー?グランさんっ」

 身体を離そうとしたグランの首を逆に引き寄せる。呆れたように力を抜いた男の肩越しに声の主を睨みつけてやった。

 飄々とした態度、軽い印象を与える喋り方、赤毛、いけ好かない男。

「なんの用だい?"赤い弾丸"」

「あいっかわらず冷たいな~、キティ姐さんは。まあ、お邪魔した俺も悪いけどー」

 グレイ師団クールグレイ隊七番部隊隊長リムゾン。赤毛と真っ赤に塗装された銃を扱うことから通り名は"赤い弾丸"。

 ヒラヒラと手を振りながらヘラヘラと笑うリムゾンにグランは溜め息を吐いた。

 溜め息はリムゾンに対してだけではなくアタシに対する呆れの表れでもあったらしい、頭をポンポンと軽く叩かれた。離せ、の合図だ。

 渋々、絡めた腕を緩めれば優しく引き派がされて髪をクシャリと撫でられた。

 まったく、口では言い負かせても、こういった面では適いやしない。

「リム、冗談はそのくらいにしておけ。俺とこいつじゃどうにかなろうにも、どうにもなりようがない」

「まったくだ。例え一晩同じベッドで過ごしたとしても何も起こる気がしないよ」

「なんだってお前さんは、そういう生々しい言い方を…」

「あーもう仲イイってことはわかったんでそろそろイチャつくのやめてくれません?キティ姐さんをお借りしたいんスけどダメっスか、グランさん」

「おー借りてけ借りてけ。そもそもイチャついてねえし」

 犬でも追い払うかのようにシッシッと手を振るグランには流石のアタシも腹が立って足を踏んづけてやった……いや、正確には避けられたから踏めなかったけど。

「んじゃー遠慮なく~」

 リムゾンはリムゾンで無遠慮にアタシの手首を掴む。振り払おうにも引っ張ったままズンズン歩いていくもんだから、やりにくい。

「グラン!アンタ、アタシがコイツのこと嫌いだって知ってるんだろう!?助けてやろうとは思わないのかい!」

「思わねーよ、また明日な。おやすみ」

 わざとらしく欠伸をしながら門番を呼び戻しに行くグランの背中を睨んだ。話したいことは、まだある。肝心なことを話し忘れていたのだ。

「アンタの部下…いや、"元"部下は今も生きてるよ」
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