vivid
 遠ざかりかけていた背中が止まった。それでも振り返りはしない。

「……会ったのか」

「まあね」

 訊かれる以上のことを答えるつもりはない。短く答えるとグランの肩が僅かに揺れた。

「"今も生きてる"、か。随分な言い草だ。まるで生きててほしくなかったみてぇじゃねえか」

「そんなことはないさ。ただ、アタシも会うのは五年ぶりでねぇ」

「そうか……わかった。おやすみ」

「ああ、いい夢を」

「お前さんもな」

 リムゾンが居るせいか、それ以上なにかを問われることはなかった。背を向けたままヒラリと手を振って門の陰へと消えていく。

 当のリムゾンはといえばアタシとグランが喋っている間は引っ張ることをやめていたものの会話の内容に興味を示す素振りはない。グランの背中を見送ると再びアタシを引っ張り始め、エントランスまでの道のりを歩いた。

 もう抵抗するのも面倒になって視界にチラつく赤毛を頭の中から追いやり別のことを考えることにした。

 グランの"元"部下。それは誰か、昨日アタシの"仲間"になったリグレイである。

"会いたかった"

 五年ぶりの再会とはいえ、あの男の声音には以前のアタシには含まれることのなかった色を持っていた。

 リグレイがアタシに向けるものは、グランがアタシを想ってくれているような、父親や兄に似た、そんな感情だと、そう思っていた。思っていたのに。

 五年前までは、あんなんじゃなかったのに。

 やりずらい。アタシはヘーカを殺すことだけを考えていればいい、それだけでいいのに。

 まったく男って生き物は、どうしてこうも……。

 ヘーカといいリグレイといい、色情ボケが、と罵るまでには至らないが頭を抱えたくなるのが正直なところだ。もっと平たく言おう、面倒くさいのだ。

 そうこう考えているうちに門からエントランスまでの長い道のりに終わりが見えてきた。階段を上り門番への挨拶もそこそこに大きな扉を開けさせるとリムゾンはアタシを中へ引きずり込むかのような勢いで引っ張った。

 舌打ちをしたのが聞こえたのか聞こえなかったのかはわからないがアタシの後ろで扉が閉まったのを確認すると赤毛を指先でいじりながらニヤリと笑う。
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