vivid
 まーぶしーなあ-…。


 ボンヤリとした頭で考えられることは、たったのそれだけ。

 シャッと音がした気がするから誰かがカーテンを開けたんだと思う。

 ほとんど無意識に薄手の毛布を頭までつっかぶった。

 ボンヤリが晴れ始めた脳が昨日起こったことを教えてくれる。此処は宿だ。隣のベッドで寝てたのはイッシュ、オッサンは酒飲みに行くって言ったっきりで後のことは知らねー、キティは此処には居ない。

 そんでオレは……つーか今、何時?

 目をあけてモソモソと顔をだす。日の光が心なしか黄色い気がした。建物が黄色いから反射したりするんだろうか。

 そんなことを考えながら顔を手で覆っていると自分の手以外の影が落ちてきた。

「寝かしといてやりたいのは、やまやまなんだけどな、」

 イッシュだ。声が明らかに呆れている。

「寝過ぎだ、もう正午になる」

「え!もう!?」

 ガバッと毛布を剥いで起き上がる。寝たにしたって、まだ十時くらいだと思っていた。

 昨日みんなで囲んだ丸テーブルの方にはオッサンが居て、オレの様子を見ながら笑っている。

「おそよう、ボウズ」

「あー………朝飯…」

「おいおい、飯の心配かよ」

「なかなか起きないから、お前の分の朝食は下げてもらった」

「えぇ~!起こしてくれりゃあよかったのに!!」

「いや…疲れてるだろうと思って。起こすのも気の毒かと……」

「安心しろ、ボウズ。もう昼飯が運ばれてきてる」

「え……あ、ほんとだ、美味そ~」

「食べる前に顔を洗ってこい」

「へーい」

 なんだか母親みたいなことを言うイッシュに促されて洗面所のドアまでかけて行った。

 母親がいたかどうかもわからないオレが"母親みたい"なんて言うのは可笑しいかもしれないけど、さ。
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