vivid
「そうか……ワクスじいさんが…」
三人で昼飯を囲みながら改めて自己紹介をしよう、ということになった。自己紹介っていうか今に至るまでの自分の境遇?っていうか。
最初に話すことになったのは起きるのが一番遅かったオレ。
ジィちゃんが死んでから昨日までの流れをザッと説明するとリグレイが、そう呟いた。
オムライスを口にかきこみながら、オッサンがジィちゃんのこと知ってんの?と訊けば行儀が悪いとイッシュに軽く小突かれた。
口の中のものを咀嚼してる間に返ってきた応えはキティと似たようなもんで"昔、世話になった"と、それだけだった。
オレのことを知らないか、と訊けば"あのワクスじいさんに孫がいたなんて思いもしなかった"、だそうだ。
記憶の頼りにはならないか、とあからさまにガッカリするオレの皿に、リグレイは付け合わせのトマトを寄越してきた。
「まあ、そう気を落とすなよ。自分が死んだせいで孫がいつまでも落ちこんでたってな、あのじいさんは喜ばねえって」
「勘違いすんなよ。ジィちゃんのことは、もう大丈夫だし」
「そう片意地張るなって。ほら、トマト食えトマト」
「オッサン、自分がトマト食えねぇだけだろ!絶対」
湿っぽいのは苦手だから、こういう雰囲気に持ってってくれるのは有り難いけどトマトは要らない。別にトマトは嫌いじゃないけどオッサンが口つけたスプーンで掬われたトマトは食いたくない。
オレに食べ物の好き嫌いがほとんどないのもジィちゃんのおかげなんだよなあ、とか思うとジィちゃんが恋しくなったりもするけどさ。
まあ、なんとかトマトをオッサンに突っ返すことが成功して満足したオレはオムライスの残りを平らげた。オムライスっていうか、もう卵乗ってなかったからケチャップライスだけど。ガキの頃からオムライスは上に乗ってる卵だけ先に食っちまう癖がある。
「オレのこたぁもーいーからさあ、ん、次イッシュ話してよ」
「だから、食べながら喋るな」
本日二回目の注意をしたイッシュを見やると若干、不思議そうな顔をしていた。
"五歳以前の記憶がない"ことをオッサンに話さないのか、と思ってるんだと思う。
もちろん話し忘れてるわけじゃあない。元々オッサンには話す気がないんだ。
昨日、会ったばっかだし、キティとの会話の中で薄々わかってるだろうとも思うしわざわざ話すこともないだろう、というのがオレの考えだ。