vivid
 なんとなく察してくれたのかイッシュは手に持っていた食器を置きながら、ゆっくりと自分の身の上を話し始めた。

 言葉を選んでいるんだろう、どこまで話していいのか自分と相談しながら喋っているように見える。

 ポツリポツリと、こぼされていった過去は淡々とした口調とは裏腹で、悲痛なものだった。

 "白狩り"で両親を殺されたこと、両親を殺した男を殺したかもしれないこと。

 "白狩り"から逃れたあとも暫くは気が休まらなかったという。信用できると思って頼った相手は何人かいたけど何回も裏切られた、と。

 イッシュは覚えてるんだ。

 五歳のときに体験したはずの"白狩り"の恐怖をオレは知らない。

 っていうか、いいのかな。こんなこと話したら自分は"白"です、って認めてるようなものなのに。

 昨日のキティとの会話を聞いて、まさかとは思ってはいたけど本当にイッシュが"白"だったなんて。

 驚きはしたけど、できるだけ顔にはださないようにした。

「そうか……苦労したんだな、お前も」

 オッサンがボソッと呟いた。"お前も"の"お前"は誰を指すんだろう。オレか、オッサン自身か、それとも…キティか。

 なんだか"白狩り"の記憶のない自分が急に後ろめたくなって俯いた。

 たぶん記憶があることでイッシュは苦しんでる。ひょっとしたらオッサンも。でもオレは記憶がないことでグダグダ悩んでるんだ。そんな自分が、ちっぽけに思えた。

「もう過ぎたことだ。よくしてくれた人もいた、恵まれすぎていたくらいに思う」

 オレが俯いていることに気づいたのかイッシュの声が少しだけ明るくなった。頭の上に乗せられたのは、たぶんイッシュの手だ。

「数年間、その人の世話になって、そのあとは一人で旅してまわっていた」

「で、その旅の途中、キティにスカウトされたってわけか」

「スカウト…?……まあ、そうなるのか」

 頭に置かれていた手が離れた。

 オッサンと話していたイッシュがオレの名前を呼ぶ。顔を上げると穏やかな表情をしたイッシュと目が合った。

「ルーイ、一つだけ訊きたい」

「……いいよ」

「答えたくなければ答えなくてもいい」

「うん、何?」

「覚えて、いるか…?」

 "白狩り"を。

 最後まで言わなかったのはオレへの優しさなんだろう。

 嘘を吐く理由もない。オレは正直に答えた。
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