vivid
 イッシュが息を呑むのがわかった。

 オッサンは構わずに続ける。俺が"黒"だってこたあ判ってたんだろ?と。

「俺は"白狩り"のときに動いた軍隊の一員だったんだよ。この手で"白"の者を何人も斬った。女も子ども無差別に、な」

 言葉がでなかった。

 その話が冗談ではなくて本当のことだって言うのなら、この男がオレの両親を殺した可能性だってなくはないはずだ。

「一応言っとくが冗談じゃあねぇからな。嘘なら、もっとマシな嘘を吐く。お前らの親を殺したのは、もしかしたら俺かもしれない」

「それは、ない」

 相変わらず表情を変えることのないイッシュが断言した。

 "白狩り"の記憶のないオレが記憶のあるイッシュより先に口を開くのもどうかと思って黙っていたけど、ここまでハッキリ言うなんて意外だった。

 驚きの声をあげつつも可能性の段階でオッサンを責めるのはやめようと、そう思った。

「あんたじゃない。俺の両親を殺したのは右目の下にカラーコードがある男だ。あんたに、それはない」

「そうか…そういや昨日、キティとそんな話してたな………まあ、俺は懺悔がしたいわけじゃあねぇ、とりあえず聞け。お前もいいな、ボウズ」

「うん」

 とても食える気になんてなれなくてイッシュの食べかけのオムライスを、やっぱりテーブルの奥へと押しやった。

 変わりにコップの水は、どんどん減っていった。



 オッサンの話を聞いていくうちに"白狩り"は狩られる側だけでなく狩る側も辛かったのだということが伝わってきた。

 実際、オッサンの周りには罪のない"白"の人たちを殺さなければならない毎日に気が狂って自殺していった者も多かったらしい。

 当時、兵として戦うことにしか自分の生きる意味を見いだせなかったというオッサンは、そんな中で疑問を持ちながらも機械的に刈り続けていたらしいが突然なにかのタガがハズれたように恐怖が押し寄せてきた、という。

 殺し続けることに気が狂い始めたオッサンは、ある日、自害を試みた。

 それでも今こうやって生きているんだから、そこで死ぬはずはないのにオレは思わず息を呑んだ。

 死ねなかった、とオッサンは笑った。

 上官に見つかって地下牢行き、どっちにしろ死ぬもんだと思っていた、そう言ってまた笑った。
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