vivid
「地下牢にぶち込まれたところで待ってるのは絞首台か断頭台、はたまた生き地獄か……生きてたってそのうちイカレた頭抱えて死ぬもんだと思ってたよ」

「でも死ななかったってことは……」

「ああ、キティだよ」

 そういえば"お前が居なけりゃなかった命だ"みたいなことをキティに言っていた気がする。

 オッサンはオレが言いかけたのを引き継ぐとニヤリと笑った。

「かんわいかったんだ、コレが。十年前ってったら十歳だろ?今は今で美人だが可愛いのなんのって、」
「あの女が可愛かろうがどうだろうが、どうだっていい。続けてくれ」

 少しイライラしたような表情をしたイッシュを宥めるように二言三言、言い訳をしながらもオッサンは続きを話した。


 代々、王位は世襲制で継承されているというブラックの当時の王女様、キティに助けられて、オッサンは地下牢から脱出したのだという。

 その後はワクス、オレのジィちゃんに世話を焼いてもらったりして結果的に此処、イエローに落ち着いたらしい。

 話してくれたのは、それだけ。キティやジィちゃんとの関係については触れなかった。


「…俺の身の上はザッと、こんなもんだ」

 水がなくなって氷だけしか残っていないコップを手にとる。沈黙に耐えかねて氷を口の中に含んでは噛み砕いた。

 オレとしてはオッサンを憎む気にも、もちろん殺す気にもなれない。

 オッサンは自分を"加害者"だなんて言ってたけどオレから言わせれば、有る意味"被害者"みたいなもんだ。

 なにも好き好んで"白狩り"に荷担していたわけじゃない、オッサンの話ぶりからして、そんな想いが伝わってきた気がした。

 オレは兎も角、イッシュは…?

 イッシュはオレとは違う、"白狩り"の記憶がある。

 イッシュの両親を殺した張本人じゃあないけど"白狩り"に荷担していた"黒"を、憎むことは当然、って言っても仕方ないんじゃないだろうか。

 恐る恐るイッシュを見上げると、イッシュは真っ直ぐオッサンを見ていた。

 オレから発せられる氷を噛み砕く音が場の空気にそぐわないんだと、ようやく察して口の中のものを無理やり飲み込んだ。

「リグレイ、」

「おう、どうする。殺るか?」

「いや、俺は、そこまでガキじゃない」

「……そうか」

「え、イッシュ、」
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