vivid
 いいのか?と思わず訊いてしまった。オッサンにもイッシュにも失礼だってことに気づいたのは言ったあとのことだった。

 オレが訊くべきことじゃない。

 慌てて今のナシ!と手を振り回すとイッシュは困ったように笑った。オッサンも似たような顔をしている。しかも二人して顔を見合わせて、だ。え、いつの間にか仲良くなったの?この二人。

「今ここで、この人を殺したら、俺は"白狩り"に荷担した軍の人間全員を殺してまわらなくてはいけなくなる」

「……え?え…っと…」

「いいんだ、ルーイ。この人が悪い人間でないことは、なんとなく解った。
俺が殺したいのは両親を殺した男、一人だけだ」

「オイオイ、なんとなくって言い草はねぇだろ、色男」

「悪気はない。そっちこそ、その妙な呼び方はやめてほしい」

 え……?

 穏やかな表情で物騒なことを言い放ったイッシュにオレの表情は固まった。

 え、ちょっと待って、ついていけない。なんかちょっとオッサンとイッシュ、仲良くなっちゃってるみたいだし……え?

「確かに"黒"は憎い。でもな、ルーイ、俺はお前が思っているほど見境がないわけじゃない」

「いや、うん…それは解ってる、つもり」

 イッシュは"黒"だからって無差別に人を斬り殺すような奴じゃないし、復讐の鬼と化しているわけでもないということは、知り合って浅いなりにも、なんとなく解ってるつもりではいる。

 イッシュに対するオレのイメージが、イッシュにとってどんな風に想像されているのかは解らないけど、なんというか、こんなにアッサリしてていいんだろうか。

 尚もガリガリと氷を噛むことを再開したオレの頭をオッサンがガシガシと乱暴に撫でてきた。

「まあ、そう難しそうな顔すんなよ、ボウズ!」

「うっお、髪掴むな、オッサン!!」

「……で?お前は平気なのか」

「え……?」

 まただ。

 また急に表情も語調も変わる。元は軍人だったからだろうか、オッサンは無意識的な癖のようなもんなんだろうけどオレはこの、突然の変化には慣れられそうにない。

「俺が、"黒"が、憎いか」

「え、別に」

 即答。

 イッシュには悪いが正直ホントに"別に"なんだ。だって覚えてないんだから。
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