vivid
「おっさん!!」

 我に返れば小型犬よろしく駆けずり回っていたボウズが遠くから大声を張り上げていた。

 しばしの間、周りの注目を集める。それをよく思わなかったのか、色男が小型犬を小突いていた。微笑ましいっちゃあ微笑ましい。兄弟みたいで。

 野郎だけどな。

 背中に背負っている相棒が腰にくる。寄る年波には勝てねぇなあ、と思った途端、前方で自分を待っている若造二人が急に恨めしくなった。

「なあ、返事くらいしろって!」

「名前も覚えらんねぇ若造相手に、いちいち返事なんざしてられっかよ」

「名前で呼んだよ!何回も!!反応しねぇから"おっさん"って呼んだんじゃん!」

「へーへー」

「あんた歩くの遅すぎ!おっさんっつったって、そこまで老けちゃいねーだろ!?」

「いーや?どっかの小型ワンちゃんと違って若くもなければ?どっかの色男みてぇに足がなげーわけでもないデスし?」

「誰が"ワンちゃん"だよ、誰が!!」

 小型犬が吠えたところで色男がまた小突く。周りを見やれば上がった口角がいくつか。目が合えば慌てて逸らす。

 まあ、あんま目立つのも確かによくねぇよな。

 俺たち三人は今、暇つぶしついでに街を散策、そのついでのついでに灰色の軍服の連中、グレイ師団がこの街に来ていないかどうか見回り中、といったところだ。

 師団の連中がイエローに居た場合、目立っちまえばそれだけ俺たちがキティの"仲間"であることに気づかれる可能性がデカくなる。

「そう吠えるなよ、ルーイ。街ん中は一通り見て回れただろ?そろそろ俺は宿に戻る、暗くなってきたしな」

「そんなもっともらしいこと言って…疲れたから早く帰りてぇだけなんだろ」

「はしゃぐのも解るけどな、今からそんなとばしてたら、これから先もたねぇぞ?少年」

 生まれてこの方、故郷からでたことがないってんだから、このテンションにも頷ける。膨れっ面をした小さな頭をグリグリと撫でてやった。

 やーめーろーよー!と抵抗する小型犬に一笑。そんな様子に溜め息をついた色男が小動物の肩を軽く叩いた。

「暗くなれば連中がいるかどうかもわからない。そもそも馬鹿正直に軍服を着ているかもわからないしな。あの女が戻ってくるまで宿で大人しくしているのが得策だ」

 解るな、ルーイ。小声で小さな子どもに言い聞かせるようにそういったイッシュは本物の兄のようだった。言われたルーイも素直に頷く。
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