vivid
 俺の言うことは聞かねーくせしてオニイチャン言うことはすんなり聞くのかよ、そんなに俺には説得力ないってか?

 イッシュがルーイの背中を叩いたのを合図に頭から手を離した。

 端から見れば俺たち、親子に見えてもおかしくねーんじゃないか?威厳のねぇ親父と頼りがいのある長男。くそ、年はとりたくねぇもんだな。願わくば父親ってもんにもなりたくねぇもんだ。

 歩きだした息子二人(言葉の文ってやつだ)の背中を眺めながら後ろ頭を掻く。

 なんだかなあ。

 何はともあれ宿に戻れる。やっと戻れると、すっかり気を抜いていたその瞬間だった。

「キティは預かった」

 気色の悪いことに耳元で。

 ざわつく胸中、ふき出す汗。

「"黒"の集う酒場で待つ」

 野郎の声。振り返った先、視界に掠めた赤。目深に被ったフードが顔を隠す。

 遠ざかる若い背中。頭よりもまずは足。

「先に戻っててくれ!」

 それだけ言って走った。呼び止めるような声が聞こえた気がしたが状況を説明しようなんて考えは頭にない。そんな余裕はない。

 肩を、腕を、手を、ぶつけては人ごみを掻き分けて走る。背中へ投げられる怒声にもかまわない。そんな余裕はない。

 俺を呼ぶ声が聞こえる。切羽詰まった声は、もっと速く走れと言われているようでかえって俺を焦らせた。言われなくても走る。構わない。そんな余裕はない。

 速度をあげようと足に力をいれようとした、そのときだった。背中へ衝撃。それも相当な。耐えきれずに顔面から地面へと突っ込んだ。

「…ってぇな!なんなんだよ…!!」

「こっちの台詞だ…!」

 いくら呼んでも反応がないことに痺れを切らしたのか、この色男は俺の背中にタックルをかましたらしい。おかげで頬を擦りむいた。当然、打撲も。

 ルーイなら兎も角、澄まし顔がデフォルトなこの男が、こんな奇行に走るだなんて誰が想像しただろう。

「状況を説明してる時間はねえ、お前はルーイと一緒に先に宿へ戻ってろ」

「ルーイは先に戻らせた。話してくれ、何があったんだ。人ごみの中に誰か居たのか?」

「だから、くっちゃべってる時間ねえって言ってんだろ」

「いや、話してもらう。あんた、軍人としての経験は確かだろうが行動が短絡的すぎだ。ルーイの方がまだ考えて動くタイプだな」

「…るせぇな、今それどころじゃ…っ、キティが、」
「あの女が、どうかしたのか?」
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