vivid
「なぁに、どうってことない」

 銃弾が顔を擦める。ものともせず更に距離を詰めた。

 擦っただけとはいえあたったことに動揺したのか隙だらけの敵の銃を蹴り落とす。

 今度こそリボンを盗るかと思いきや、キティは予想外の行動にでた。

「いたっ」

「"いたっ"じゃないよ、この大馬鹿者。何を動揺してるんだ、アンタそれでも軍人かい?」

「だ、だって、顔はさすがに、まずかったかな、って…」

「まずいも何もあたりゃあ痛いんだよ。頬を抓られるより、ずっとねぇ」

「いててててててっ」

 何をするかと思えば頬を抓って説教だ。

 隣の色男を見れば額に手をあてて俯いていた。気持ちはわかる。

「アンタのノーコンが役に立つのは、せいぜい多勢に無勢ってときだけだよ。はずれた弾のうちの一つが偶然、大勢いる敵の一人にあたりゃあ儲けもんって程度さ」

「ハイ…」

「お得意の接近戦に持ち込んでやれば、この様だよ。アンタなんかに銃を使うまでもない」

「返す言葉もございません……」

 とうとう敵は自らリボンをほどいてキティに差し出した。受け取ってもなおガミガミと説教を続けるキティに肩を怯えさせる敵が少し気の毒になった。

 いや、やっぱ気の毒なんかじゃねぇ。キティの顔に傷つけたんだ、一発くらいは殴りてぇ。

「ご指導ご鞭撻の程、ありがとーございました!」

 説教が終わったのか突然キティに向かって敬礼をした。キティは鼻を鳴らして自分の足に結んでいたリボンをほどき、先程差し出されたリボン共々、捨てた。

 敵は気にする素振りも見せず何やらポケットから取り出し始めた。

「えーと、キティ姐さんの勝利を祝しましてー」

「なんだい、それは」

 どうやら黒の蔓のような植物の柄で装飾された質のよさげな紙らしい。カードと呼べるくらいのサイズだ。敵はそのカードをキティに見せたあと、ナイフを取り出して自分の指にあてだした。

 突拍子もねぇなあ。

 脈絡のない行動に呆れていると血の滲んだ指を先程のカードに押しつけていた。

 血印、か?

 それをキティに渡すと、もう一枚同じものであろうカードを取り出して再び指を押しつける。

「…なるほど、ヘーカはアタシに命がけのスタンプラリーをさせたいってのかい」

「面白くないスか?血のスタンプラリー」

「悪趣味だね」

「そうっスかー?あ、ちなみに俺が持ってる方は師団側の控えなんで」
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