vivid
 コドモは知らない方がいいこともある。


 そんなのオトナの勝手な言い分だ、ずっとそう思ってた。ガキ扱いは嫌いだ。

 それでも今回ばかりは知らなくてもいいやって、寧ろ知りたくないって思った。

 空になった食器を宿の人がさげに来てくれたしばらく後、二人は帰ってきた。まさかキティまでいるとは思わなくて驚いたが、そんなことより男二人のボロボロっぷりの方に驚いた。

 リグレイの頬は真っ赤に腫れていた。たぶん叩かれたんだろう。

 イッシュはキレイなだけあって顔にこそ傷はなかったが髪の毛はぐしゃぐしゃ、おまけとばかりに首に歯形がついていた。たぶん噛みつかれたんだろう。

 誰にって?プリプリ怒ってるっぽいキティに、だろうな。たぶん。

「お、おつかれさん…?」

 なんて言ったらいいかわからなくて、とりあえず男二人に労いの言葉をかけてみる。

「ああ…」

 オッサンは遠い目をしながら生返事。

「すまない…」

 イッシュも目を合わせてくれないし、なぜか謝られた。

 何がなんだかサッパリだ。とりあえず男二人がキティに怒られるようなことをしたんだろうけど。

 立ち尽くすだけのオレたち男三人を見て鼻を鳴らすと、キティはさっきまでオレが座ってた椅子にドカりと腰をおろして足を組んだ。腕も組んだ。そして背中は反っている。

 あー…まだ怒ってるってことですよねー……。

 いつか見た近所の夫婦の喧嘩に似てんなあー、と思った。今のキティみたいに見るからに怒ってる奥さんと、オロオロしながら謝る旦那さん。まあ、あの奥さんはキティほど怒ってなかったし、イッシュもリグレイもあの旦那さんのようにオロオロしている様子も見られないが。

「まー、兎に角さー…」

 とりあえず、この空気をなんとかしようと男二人の背中を叩く。

「座んなよ、二人とも。そろを宿の人が三人分の夕飯持って来るだろうしさ」

 なんて言ってる間にドアがノックされた。オレが返事をすると"お食事をお持ちしましたー"と笑顔で入ってきたが、男二人の有り様とキティの様子見た途端にギョッとして、サッサと配膳を済ませて出て行ってしまった。
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