vivid
「アンタがそれを言える立場かい!?」

 今度はテーブルじゃなかった。テーブルの下だ。キティがリグレイの足を踏みつけたらしい。リグレイが低くうめいた。

 なるほど、オッサンが何かやらかしたっぽいな。イッシュはそれの巻き添え?

「仕方ないだろうが、お前がさらわれたと思ったんだから……」

「それはさっきも聞いたよ!くどい男は嫌いだね!」

 あ、トドメさした。

 さすがに"嫌い"はキツかったんだろう、リグレイはスプーンを持ちなおして少しは冷めたはずのドリアをつつき始めた。

 そうだよな、どう見てもこのオッサン、キティのことすきだもんな。

「で、収穫って?」

 リグレイの言っていたことが気になってキティの肩をつつく。これ以上リグレイを責めても仕方ない気がした。

「収穫、ね……これだよ」

 手品のようにシュッとキティの手の中に現れたのはトランプくらいの大きさのカードだった。質の良さそうな紙の上には三つの大きな円と三つの小さな円がある。その周りは黒い蔓のような植物の模様で装飾されていた。

 円のうちの一つには赤い何かが付着している。

「……なんだ?これ。指紋?」

「そうさ。血をつけた指で捺印をね」

「は!?血!!?」

「キティ、俺にも見せてくれ」

 ドリアを冷ましながら少しずつ食べていたイッシュがカードに興味を示したのか反応した。

 イッシュが猫舌って、なんか似合うな。

「見せて…"くれ"、だって……?」

「…………見せて、ください」

「いいコだね。ほら、」

 笑顔の圧力に素直に従う。苦い顔しながらカードを受け取るイッシュに反してキティは楽しそうだ。この調子で機嫌もなおればいいんだが。

「血印か…」

「血のスタンプラリーだとさ」

「………悪趣味だな」

「まったくもって同意見だよ」

 確かに悪趣味だ。

 キティの手に戻ってきたカードを覗き込む。

「つーか、この円は何?」

「トーンリング、だろうな」

「その通り」

 オレの疑問にイッシュが応える。キティが満足げに笑った。

「あー…スタンプラリーってそういうことかー……」

「のみこめてきたかい?」

「まあ、なんとなく。そっちの二人も?」

「理解した」

 しっかり返事をしたイッシュと違ってオッサンは手をヒラヒラとふっただけだった。理解はしたらしい。

 いい年していじけてんなよな…。
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