密会は婚約指輪を外したあとで

暗い夜道をひたすら歩いていると、自分の住むアパートが見えてきて。
ようやく、長かった1日が終わる。


「……どうしたら、相手の気持ちがわかるのかな」


送ってくれたお礼を言う前に、私は拓馬へ疑問を投げかけた。


「実は見せかけだけで、自分のことを愛してくれる人なんて誰もいないんじゃないかって、ときどき落ち込むの」


結婚を考えてくれる素振りを見せる、一馬さん。

私に彼氏がいなければ、抱きしめたいと言ってくれた拓馬。

私のことを本当の母親のように慕ってくれるハルくん。


そのどれもが、もしも偽物の愛だったら──?


「呆れるほどネガティブだな。そんなの、自分の思いたいように思っときゃいいだろ」

「そういうわけにいかないよ、また騙されたくはないし」


都合よくポジティブに考えて、後で傷つきたくはない。
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