密会は婚約指輪を外したあとで
彼らの秘密
朝からずっと、雨が降ったり止んだりの繰り返しだ。
駅隣のファッションモール。
6階のカフェから見下ろす街並みは、うっすら霧がかかっている。
その景色は、もやもやする自分の心と似ていた。
「で、拓馬の兄貴との関係は順調なのか?」
窓際の席で向かいに座る西條叶多さんは、急に私をランチに誘ってくれた。
叶多さんとは、一馬さんを紹介してくれた後日、電話で軽く話したきりだ。
紺色のポロシャツにジーンズ姿の彼は、期待のこもった眼差しで私へ視線を送ってくる。
今日はいつもの黒縁眼鏡ではなく、凝ったデザインのライトブルーの眼鏡だった。
「いえ、それが……」
言葉を濁した私はハンバーグを切る手を休め、アイスティーで喉を潤す。
「婚約者のフリをして彼のマンションに出入りしているうちに、弟の拓馬さんの方を好きになったというか」
「ええっ? 結局、俺が本当に紹介したかったヤツを好きになったって?」
ステーキを口に頬張った叶多さんは、身を乗り出して聞き返した。
「彼も少しは私に興味を持ってくれた気がしてたんですけど。でも……何だか、不倫をしているみたいで。彼の気持ちがよく分からなくなってきたんです」
私は拓馬が女の人と親密げな雰囲気で一緒にいたときのことを話す。
「不倫? まさか。あいつはそんな、陰でコソコソするやつじゃないぞ」
「そう……なんですか?」
「だいたい、本当に不倫なら街中で堂々と歩くか? 例えばもっと変装したり、車で密会したりした方がバレないよな」
「……確かに」
曖昧に私はうなずく。
駅隣のファッションモール。
6階のカフェから見下ろす街並みは、うっすら霧がかかっている。
その景色は、もやもやする自分の心と似ていた。
「で、拓馬の兄貴との関係は順調なのか?」
窓際の席で向かいに座る西條叶多さんは、急に私をランチに誘ってくれた。
叶多さんとは、一馬さんを紹介してくれた後日、電話で軽く話したきりだ。
紺色のポロシャツにジーンズ姿の彼は、期待のこもった眼差しで私へ視線を送ってくる。
今日はいつもの黒縁眼鏡ではなく、凝ったデザインのライトブルーの眼鏡だった。
「いえ、それが……」
言葉を濁した私はハンバーグを切る手を休め、アイスティーで喉を潤す。
「婚約者のフリをして彼のマンションに出入りしているうちに、弟の拓馬さんの方を好きになったというか」
「ええっ? 結局、俺が本当に紹介したかったヤツを好きになったって?」
ステーキを口に頬張った叶多さんは、身を乗り出して聞き返した。
「彼も少しは私に興味を持ってくれた気がしてたんですけど。でも……何だか、不倫をしているみたいで。彼の気持ちがよく分からなくなってきたんです」
私は拓馬が女の人と親密げな雰囲気で一緒にいたときのことを話す。
「不倫? まさか。あいつはそんな、陰でコソコソするやつじゃないぞ」
「そう……なんですか?」
「だいたい、本当に不倫なら街中で堂々と歩くか? 例えばもっと変装したり、車で密会したりした方がバレないよな」
「……確かに」
曖昧に私はうなずく。