密会は婚約指輪を外したあとで
ドアのそばに立っていたのは、わざとらしく目を見開くハルくんだった。


「ハル……昨日、何で帰ってこなかった?」


抑えた口調で聞く拓馬は、私のそばから離れ、ハルくんの正面に立つ。


「僕もたまには自由にさせてよ」


静かに、ため息まじりでつぶやくハルくん。

彼の顔には、綺麗な顔立ちに不釣り合いな傷があった。


「どうしたの、それ」


私も椅子から立ち上がり彼のそばへ行く。

近くで見ると、くちびるの端が切れていたり、頬に痣があったりと痛々しい。


「別に何でもない」


私から目をそらし、傷を隠すように片手で押さえたハルくんは素っ気なく答えた。


まさか、誰かに苛められているの?


直球で聞く勇気はなかった。
思春期のハルくんのプライドを傷つけることはしたくない。

兄の拓馬から聞いてもらおうかと視線を送るものの、彼までもが私から視線をそらす。


そうして、聞くか聞かないか葛藤しているうちに、ハルくんが先に口を開いた。


「前から思ってたけど……やっぱり、片親だけって無理があるんだよ。早くなゆさんでも誰でもいいから再婚してほしいな」

「ハル……」


いつの間にか一馬さんがお風呂から上がっていて、脱衣所のドアを開けたまま深刻な面持ちでハルくんを見つめていた。

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