密会は婚約指輪を外したあとで

「わかったよ、3ヶ月以内に何とかする」

「3ヶ月……?」


何か言いたげに、拓馬が一馬さんへ視線を送る。


「それまでもう少し我慢してよ、ハル」


一馬さんの頼みを聞いたハルくんは、何も返事はせずに黙ってリビングを出て行く。



3ヶ月は相当短いと思う。

もしかして、私がこのまま一馬さんのお嫁さんに?

それとも、他に誰か候補を見つけた?


「一花、今日はどこ行こうか」

「今日ね、いちか、噴水行きたい」


この場の空気を変えるためか、明るく笑った一馬さんが、一花ちゃんを抱き上げ自分の部屋へ入っていった。



また二人きりになった私と拓馬。

口喧嘩の途中だったから、気まずい雰囲気が漂っている。


テーブルに戻った拓馬は、お皿に残っていたトーストを、むぐっと無理やり私の口の中に詰め込んできた。

その際、下くちびるに彼の指が微かに触れたのは、偶然なのかわざとなのか。


思わずドキッとした顔を覗き込まれ、大きな二重の吊り目が半分ほどに細められたから、面白がられているのは確実だ。


どうやらこのまま冷戦状態に持ち込むつもりはないらしい。

少しばかりホッとしながら後片付けを手伝っていたとき、どこからか着信音が流れてきた。

電話がかかってきたようで、拓馬がスマホで誰かと通話を始める。
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