密会は婚約指輪を外したあとで
聞き耳を立てていたわけではないけれど、拓馬が『渚』という名前を口にしたので、相手の人が誰か見当がついた。
電話を切った拓馬は私に向き直る。
「ちょっと、出かけることになった」
「いいよ。私が食器洗っておくから。朝ご飯、ごちそうさまでした。……美味しかったです」
「いーえ、昨日の礼みたいなものだし。またいつでも作る」
照れ隠しなのか、私と目を合わさずリビングを出て行こうとする拓馬に、思わず声をかける。
「ねえ、渚さんに会いに行くの?」
「……ああ。“約束”だから」
拓馬は開けかけたドアを止め、抑揚のない声音で答えた。
食器をシンクに置いた私は、微かに痛む胸を押さえる。
彼を引き止める度胸のない私は、今日もまたその痛みと戦わなければいけない。
電話を切った拓馬は私に向き直る。
「ちょっと、出かけることになった」
「いいよ。私が食器洗っておくから。朝ご飯、ごちそうさまでした。……美味しかったです」
「いーえ、昨日の礼みたいなものだし。またいつでも作る」
照れ隠しなのか、私と目を合わさずリビングを出て行こうとする拓馬に、思わず声をかける。
「ねえ、渚さんに会いに行くの?」
「……ああ。“約束”だから」
拓馬は開けかけたドアを止め、抑揚のない声音で答えた。
食器をシンクに置いた私は、微かに痛む胸を押さえる。
彼を引き止める度胸のない私は、今日もまたその痛みと戦わなければいけない。