密会は婚約指輪を外したあとで
結婚をOKしたわけではないのに、一馬さんの喜びように不安を感じる。

拓馬はこれを見ていないだろうか。

気になって視線を辺りに走らせるけど、彼の姿はすでに雑踏の中に消えていた。


「俺と結婚する気になったら、もちろんそのまま2週間と言わず、ずっと指輪をつけてくれてていいから。──じゃあまた今度。会えるときを楽しみにしてる」


一馬さんは婚約指輪を渡すだけ渡して、名残惜しさもなく帰って行く。


本当に私のことを好きで結婚したいと言っているなら、このあとご飯でも食べに行ったり家まで送ってくれたりするはず。

だけど、一馬さんにとって一番大事なのは娘のこと。

元奥さんに預けられているのが心配で、迎えに行ったのかもしれない。


薬指で輝くダイヤの指輪を眺めていると、いろんな悩みの詰まった溜め息がこぼれる。



足取りの重い帰り道。

星がまばらに散りばめられた夜空を見上げているうちに、ふと全ての解決方法を思いついた。


それはとても単純なこと──好きな人に告白すればいいのだ。


玉砕しても、失う物はさほどない。

最悪、実家に帰って、一から出直せばいい。
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